夜のしじまに紛れ、いくつかの人影が跳躍した。
大人にしては少し小柄なその影たちは、眼前の壁を乗り越え、やすやすと城へと侵入した。
最後の一人が地面に着地した後、頷き合わせて足音なく走り出したのは乱太郎、三治郎、兵太夫、伊助の四人だ。
城に潜入するにあたり、流石に全員で行くわけにもいかないので、
素早い者、注意力のある者という基準で彼らが選抜された。
仲間の適性は皆把握しているので、もちろん異を唱える者はいなかった。
しかし、四人が選抜されたとは言え、他の者がのんびり外で待っているというわけではない。
まだ明るいうちに町についたので、残りの者は町で更なる聞き込みをしたり、
最終的な合流場所と定めた町外れの小屋で、これまでに得た情報を再度突き合せて分析したりと、
それぞれの得意な分野で調査に加わっている。
チームワークの良さと臨機応変な対応ができるところは、は組の持つ大きな強みだ。
普段の授業や試験では今のところあまり効果が発揮されていないが、こういったときにはその長所が遺憾なく発揮される。
城への潜入組ももちろん例に漏れることなく――半刻ほど経った後、再び同じ人影が城からこっそりと出ていったのだが、
特に騒ぎが起きることもなく、夜は何事もなかったかのように沈黙を守り続けた。
■ ■ ■
「ただいま〜!」
城の潜入から戻ってきた四人を「お帰り〜!」と町外れの小屋の中で待機していた他の皆が出迎えた。
「もう外は真っ暗だけど、この小屋にくるまでの道、迷わなかった?」
「うん、何とか。一人だったら危なかったけど四人いたし」
そんな雑談をしながら、帰ってきた四人を囲む形で腰を落ち着ける。
「――で、どうだった?何か気になるものはあった?」
庄左ヱ門の問いに、まず答えたのは兵太夫だった。
「面白いからくりを見つけたよ。お城からの抜け穴なんだけど、城下から城の庭に繋がってた」
「え、でもお城に抜け穴があっても別に不思議じゃないだろ?」
団蔵が首を捻り、数人が同意を込めて頷いた。
敵に攻め込まれたときの脱出用に抜け穴があるのは至極当然のことだ。
面白いからくりと称するほどのものではない。
しかし兵太夫は「いいや」と首を横に振って続けた。
「その抜け穴なんだけど、ごく最近使われたあとがあったんだ。というか、割と頻繁に使われてる感じだった」
「それは…確かにおかしいな」
つまりは、抜け穴を使うような人目を忍ぶ出入りが日常的に行われているということ。
「一体、誰が何のためにその抜け穴を使ってるかってことだな…。他には何かなかった?」
視線を向けられた乱太郎が、暫し考え込み、それから「そういえば」と話し始めた。
「前に喜三太が見つかった場所に、まだ荷車が置いてあったから、ちょっと荷物を解いて中を見てみたんだ。
そしたら普段見ないような珍しいものが沢山出てきたよ。あれ多分舶来品なんじゃないかなと思うんだけど」
「うわ、高級品ってことか!それだけのお金、どこから出てるんだろう」
はぁと羨ましげな溜息が上がる。
それを見ていた庄左ヱ門がハッと何かに気付いたように目を瞠った。
「待ってくれ、皆。逆かもしれない」
「逆?」
「つまり、その舶来品を買うお金を持ってるんじゃなくて、それを売ってお金を手に入れてるんだとしたら?」
「お城で、商人みたいに珍しいものを仕入れて売ってるってこと?そんな噂は聞いてないけどなぁ」
「それに仕入れるって言っても、舶来のものは今この近辺の町では手に入らないって聞いたぞ」
町での情報収集組が次々と口を挟む。
すると、今度は城への潜入組が手を挙げた。
「何で舶来のものが手に入らないの?」
「それは、そういう品物を一手に集めてる隣町の卸問屋が、この前、強盗に襲われて―――」
聞き込んできた内容を告げる声が徐々に尻すぼみになり、そこで消えた。
互いに顔を見合わせ「あれ、それってもしかして…」と呟く仲間の中、乱太郎が「つまり」とまとめた。
「つまり、強盗はお城の内部にいる人間で、奪った品物を売って城の財源にしてるってこと?」
庄左ヱ門は重々しく頷いた。
「これで、前に来たとき喜三太があれだけ警戒された理由もわかったな」
「そっか。盗品を積んだ荷車を調べてるんじゃないかと思われたわけだ」
「恐らくね。喜三太は行商人の持ってきた荷物に紛れてその場所まで行ったということだから、
その行商人も強盗の仲間かもしれない。
夜に強盗に入って、その後、沢山の盗品を持って移動してたんじゃ、動き辛いし、
抜け穴を使うところを誰かに見られる可能性だって高くなる。
それなら、抜け穴は城から出入りする強盗団だけが使った方がいい。
奪った品物自体はいったん別の場所に隠しておいて、別の日に行商人を装った仲間が
堂々と正面から城に引き入れるのが得策だ」
なるほど〜という声が方々で上がる。
「乱太郎たちが見た舶来品が、この前強盗にあった卸問屋で奪われたものと一致したら、この説でほぼ決まりだと思う」
「裏を取るってことだね。さすが庄ちゃん」
「舶来品とかなら、しんべヱが詳しいよね。………あれ?しんべヱは?」
小屋の真ん中で円陣を組む形に集まっていた面々の顔をぐるりと一巡して、おかしいなと首を傾げる。
「しんべヱは町で聞き込みしてたんじゃなかったっけ?」
「うん。夕方に町の饅頭屋でいろいろ話を聞いてたときは一緒にいたよ。
でも気付いたら外がだいぶ暗くなってて、この小屋のあたりは暗くなったら道がわかりにくくなるって
庄左ヱ門から聞いてたから急いで店を出てこっちに向かったんだけど、
そのときは……あれ?そういえば、あのときにはしんべヱいなかったかも…」
「…まさか、饅頭屋で饅頭食べてたりとか?」
「饅頭に夢中で他の皆が帰ったことに気付かなかったとか?」
「暗くなってから一人でこっちに向かってて、もしかしたら迷ってたり、とか?」
「「「………」」」
ついこの前も似たようなことがあったなと、一瞬皆で遠い目をしたが、城の危険性がわかった今、
見当たらない仲間を放っておくことはできない。
彼らはすぐに立ち上がり、手分けをしてしんべヱの捜索へと向かった。
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