その日、セレストはカナンに付き従って、森へと続く細い山道を歩いていた。
とは言っても、城の裏手にある小さな山だったが。
王子とてこれぐらいの息抜きぐらいは許されるだろうという見解からなのか、この程度の道程の散歩なら多少は大目に見てもらえた。
天は快晴。
前を歩く金の髪が太陽にきらきらと照らされている。
神々しい色彩に反し、本人の歩き方は元気一杯で、いかにも健康的だ。
その様に、昨夜の彼とのギャップを思い、セレストは慌てて首を振った。
脳裏を過ぎったのは、真白いシーツの上、月光を吸ったかのように静かな光を醸し出す満月色の乱れた髪。
次いで現われた、潤んで深みを増した蒼色の瞳を何とか意識から剥がす。
何を考えてるんだ俺は!勤務中だというのに・・・!
雑念を振り払おうとしている間に僅かに開いてしまったカナンとの距離を詰めようと歩調を早める。
一歩。二歩。
ふわりと風が吹いた。
「あ・・・」
密やかに漂ってきた香りに、今度こそ完全にセレストの足が止まった。
前を歩くカナンが振り返る。
「何だ?」
「は、はい、あ、いえ、申し訳ありません。な、何でもありません」
歯切れの悪い答えに訝しげに細められた瞳が暫くこちらを見ていたが、やがてそれはふいっとそらされた。
「おかしな奴だな」
けれどその口調は、決して不快を示すものではない。
カナンは再び歩を進め、従者たる彼もそれに倣った。
END.
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