「まったく・・・まったく・・・っ」
青い髪を靡かせて足音も荒く歩くこの青年、名をセレストという。
普段穏やかなこの青年が、苛立ちを隠しもせず駆け回る姿というのは実際、かなり珍しいものであった。
もっとも、彼の主君である第二王子カナンが絡まなければ、という但し書き付きであるが。

「あのかたは何だってこんなに無茶ばかりなさるのだ・・・!」
苛々とそんなことを呟きながら城内を歩き回る。
ときどき髪をかきむしりながら、その瞳はただ1人だけを求めていた。

「カナン様っ、一体どちらにいらっしゃるのですか!?」




太 陽 の ヒ ト 

BY 九堂 紫





「こちらにもいらっしゃらないか・・・」
知らず、落胆の溜息が漏れる。

かの好奇心旺盛な王子が時折出没する訓練場も地下の倉庫も、今日ばかりはその姿を見つけることはできなかった。

城内はくまなく探した。
しかし、そのどこにもカナンの姿はなかった。

まさか・・・

セレストの背筋を冷たいものが伝い落ちる。

「またお忍びで町へ出掛けられたのでは・・・っ」

末っ子ということもあってか、身分の割に奔放すぎるあの王子は、ときどき1人で城を抜け出したりするのだ。
それがどれだけ危険なことかも知らずに。

利発で聡いかただが、御身のことについては何もわかってらっしゃらないのだ!

そういうところだけにはびっくりするほど疎くなるかの人に、歯噛みしたくなる。

王族の中にあっても稀有な、太陽の光を集めた金の髪に、深い湖を思わせる碧眼。
黙って立っていれば、間違いなく尊き血筋に連なるかただと一目でわかる整った容姿に反して、その顔に浮かぶ元気一杯の笑顔やら悪戯が成功した子供のような表情。

群集の中に紛れてもどれだけ目立つか、そしてその容姿が、所作がどれだけ人を惹きつけるか全くわかっていないのだ。

王子という身分で城下を単独でうろつくなどもってのほかだが、身分を知らずとも、彼自身に惹かれて近寄ってくる者どもがどれほどいることか。
しかも、その中には不埒な考えを抱く輩もいるわけで―――

それなのに、物心つく前から今まで、カナンの無鉄砲さは静まることもなく。
ふらっと城からカナンが消える度に肝を冷やすセレストのことなどお構いなしだとでもいうように。
勿論、そんな人物でないことはセレストもわかってはいたが、しかし。

「ああっ、もう!」
セレストは城門に向かって駆け出した。

まったく・・・まったく・・・
今日という今日は一言進言させていただかなければ気が収まらない。

「カナン様っ、もう少しご自分のことを正しく理解してください!!」

「僕が何を理解するというんだ?」

「は・・・?」

突如、上から降ってきた声に、セレストは全ての思考を中断された。

「セレスト。随分と急いでいるようだな。どこへ行くんだ?」
「カ、カナン様!!」
「はは、冗談だ。遅かったなセレスト」
城門へ至る道の脇に立っている大木の上からいっそ憎らしいほどのにこやかな笑顔を浮かべて手を振る主君に、セレストは脱力感を禁じ得ない。
「カナン様・・・。そのようなところで一体何をしてらっしゃるのですか・・・!」
「ん?僕はお前を待っていただけだが?」
「私を・・・ですか?」
思いも寄らぬ答えを返されて、セレストは困惑する。
「よ、っと」
その間にすとっと目の前に飛び降りてきたカナンは、にっこりと笑ってセレストを見上げた。
つられて思わず微笑みそうになったセレストだったが、はっと我に帰り厳しい表情を作る。
「カナン様!またお忍びでどこかへ出掛けようとしてらっしゃったのですね!」
「だが僕はまだ城外へは出ていないぞ」
「これから出るところだったのでしょう。全く、お1人で城下へ出掛けられることがどれだけ危険か、何度申し上げたら・・・」
「その説教は聞き飽きたぞ」
「それはっ、カナン様が行動を謹んでくださらないからで・・・!」
カナンはどうどうとセレストを制止しながら言った。
「だから、お前が来るのを待ってた」
「・・・はい?」
「お前が言ったのだろう。1人で出掛けるなと。だから僕はわざわざお前が来るのを待ってたんだぞ」
「待ってたって・・・」
そんな話は初耳だ。
記憶を手繰っても、そんな約束どころか話を聞いたこともない。
恐る恐る、問い掛けたところ、
「だって、どうせお前は僕を探してここへ来るだろう?」
手間が省けるじゃないかと、あっけらかんと言い切る主君に、セレストはがっくりと肩を落とした。
「それは確かにカナン様の手間は省けるかもしれませんが、それってつまりその分私の手間が増えるってことじゃ・・・」
「何をぶつぶつ言っている、セレスト」
「いえ、何でもありません・・・」
変なセレストだな。まぁいつものことだが、とさらりと聞き捨てならない台詞を吐きながら、カナンはセレストを促した。
「さて、では出掛けるぞ、セレスト」
「は・・・ではなくて!駄目ですよカナン様!お勉強を終わらせて・・・」
「もう終わった!」
心外だというふうに頬を膨らませるその様は嘘をついている表情ではない。
「いえ、しかし、その、ですが、やはり城外にお出掛けになるのは危険ではないかと・・・」
「だからお前を連れていくと言っているじゃないか」
「そういう問題では・・・」
「何だ?お前では頼りないというのか?仮にも国で二番目の剣士が、腕に自信がないと?」
「あ、いえ、あのそういうわけでは・・・」
「それに僕もいっぱしの冒険者だぞ!多少の危険ぐらい平気だ!」
いっぱしって・・・。
ふぅとセレストは嘆息する。
そのセレストの表情をどう読み取ったのか、もしくはもう一押しだと思ったのかもしれないが、カナンの表情が哀しげに歪んだ。
「そうか・・・。僕はそんなに頼りないか・・・。お前にこれほど信用されていないんだから・・・僕は冒険者としても主君としても失格だな・・・」
「い、いえっ、決してそのようなわけではっ!!」
とかくセレストはカナンのこんな顔に弱い。
慌てふためきつつ取り繕おうとするセレストに、カナンはとどめを刺すようにちらりと視線を向けた。
「しかも、僕はセレストと一緒に出掛けようと楽しみに待っていたのに・・・お前は僕と出掛けるのが嫌なんだ・・・」
「かっ、カナン様・・・っ」
駄目だ駄目だ騙されては駄目だ!
過去に幾度この手に引っかかってきたことか!
だが・・・っ!しかし・・・!!
「・・・お供いたします・・・・・・」
そうとしか言えない自分をセレストは経験上、悲しいぐらいによく知ってしまっていた。

「そうか!」
途端、ぱあっと明るくなる顔つきに、セレストは「あぁぁまた・・・」と心の中で静かに涙を流す。

けれど結局自分はこの人には逆らえないのだ。

何しろこの笑顔を見ているだけで、まぁいいかと思えてしまうのだから。

しかもその頃には、用意していた沢山のお小言も完全に頭の中からは消えていて。

まったくこの人には敵わない。
セレストは苦笑いを浮かべた。


「では行くぞ!セレスト!」
意気揚々と歩き出したカナンが、ふとセレストを振り返った。

「だが、お前と一緒に出掛けたかったのは本当だぞ」


多少無鉄砲で意地っ張りなところもあるこの王子はいつだってまっすぐで。


「はい、カナン様」

セレストは自然と笑顔を返す。


いつだってこうやって、セレストの心の中にいつだって温かな太陽の日差しと温もりを投げかけてくれるのだ。











2002.02.17アップ
ノリで一気に書いてみた特に深い意味はない話です。(^^;)
健気王子様とか強気従者も実はとっても好きですが(てへ)、
個人的にはやはり、カナン様に振り回されるセレストさんと、
無意識(時折確信犯?笑)にセレストさんを振り回しまくるカナン様が好きです・・・v





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