「・・・っ」

不意に、銀の髪が揺らめいた。
あっと思った瞬間、グラリと、プラチナ様の体が傾いだ。

「プラチナ様!!」

「プラチナ!」





【未来への要素】





地面に片膝をつき、荒い息をつくこの方の顔色は驚くほどに悪い。
もともと色の白いお方だったけれど、こういうとき、頬は透けそうなほどに白い。
その蒼白の顔色で唇をきゅっと噛み締めて痛みを堪えているのであろう顔つきが痛々しい。

元々それほど体が丈夫な方ではない。
そのくせ、細身の体から繰り出される魔法力は強大で、そのギャップが、より、不安定な脆さを僕たちに感じさせた。

赤の王子との戦いだけでなく、連日起こる天使との戦闘。
戦いが頻発するようになった近頃では、プラチナ様が3日に1度は寝込まれていることを僕は知っている。
もっとも、あの方はそれを僕たちには隠そうとするから僕たちは気付いていない振りしかできないのだけれど。


プラチナ様はこういうとき、人に労わられるのを好まない。

「・・・大丈夫だ。少し・・・目眩がしただけだ」


下がれ、というふうに上げた片腕で制されてはそれ以上近づけない。
少なくとも、僕とロードとジルは。


「ま〜たいつもの発作ですか?プラチナ様」

やれやれと腰に手を当ててプラチナ様のすぐ側に立つのは、始まりのときからプラチナ様につき従っていたという参謀の「彼」だ。

プラチナ様の制止すら、この男には何の効果もない。
余裕の表情で、主たる王子を見下ろす。


「ジェイド・・・か・・・。大丈夫だ、と・・・言っている」


何とか呼吸を整えようとしているのが痛ましい。
けれど、そんなあの方を前にして彼は口許に笑みさえ浮かべるのだ。


「そうですか。それは良かった。
・・・と言うより、こんなところでプラチナ様に倒れられちゃ、困りますからねえ。
まだ赤の王子も倒していないというのに」

プラチナ様自身の体の心配なんかこれっぽっちもしてないとでも言いたげな口調。

「プラチナ様、わかってます?
たまたま相手の数が少なかったからいいようなものの、
仮に向こうがもっと大群であったら、仮にもっと手強かったら」

腰を折り、わざわざ耳元で囁くように言う。

「・・・あなた、このひと月で優に10回は死んでます」

「・・・っ」

プラチナ様から返る言葉はない。

僕は無意識の内に拳を握り締めた。
ジルは僅かに目を細めた。
堪りかねたようにロードが叫んだ。


「おいジェイド!今、んなこと言ってる場合かよ!
プラチナをテントで休ませることの方が先なんじゃねーの!?」

マジ性格悪ぃなお前、と睨みつけるロードに、彼はさらりと視線を流した。
何でもないように言葉を返す。

「おや、『そんなこと』とは何です。プラチナ様にはもっと自覚をもっていただかないと。プラチナ様の体はプラチナ様お一人のものではない。プラチナ様が倒れて戦えなくなるだけで、そのフォローをしなければならない私たちにはいい迷惑。ましてや、負ける、なんてことはあってはならないことですし」

負けることは許さないと、プラチナ様に容赦なく重圧を掛けつづけるその言葉。
それはきっとプラチナ様を縛り付けているに違いないのに、プラチナ様だけが、それに対して何も不平を言わない。

ああ、今もそうだ。
彼のあまりの台詞に言い返そうとしたロードを止めるかのように、
長い髪をさらりと風に遊ばせながら、プラチナ様は立ち上がった。

「・・・もう大丈夫だ。戦える程度に回復した」

語調はしっかりしているが、顔色はまだ戻っていない。
恐らく、立っているだけでも辛いはずだ。
けれどプラチナ様は僕たちには弱さを見せない。

そして、いっそ悲壮なほどの強い瞳が、揺るぎない蒼が、傍らに立つ彼の参謀を見詰めた。


「・・・それから、ジェイド、心配するな。オレは負けない」

「ええ、期待していますよ、プラチナ様」

明らかに体調の悪いプラチナ様に手を貸そうともせず、彼はただ、にっこりと笑って答えた。



ち・・・っくしょうと、噛み殺したような悔しげな呟きが僕の耳にも届いた。
見遣ると、ロードが足元の小石を蹴りつけるところだった。

僕もまったく同感だった。



許せない。



何故あなたはそんなにもプラチナ様を苦しめるのですか。
強くて美しくて、そして脆いこの方を一体どこまで追い詰めたら気が済むのですか。



あの方を前にして、どうしてそんなに冷たい瞳ができるのか、それが僕にはわからない。








・・・プラチナ様。


どうして、あなたは、何も言わないんですか。

どうして、


どうしてあんな人を側においているんですか。

それが、本当に貴方の望みなのですか?


プラチナ様・・・









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2002.07.07アップ

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