『密なる・・・』





プラチナは大木の前で溜息をついた。
ちょっとした息抜きに森を散策していたはずだった。
それなのに、ぼんやりと歩いていたらこんなところまで来てしまった。
・・・よりによって、ここに。

大木に右手を預け、プラチナは回想する。

先日、天使が倒れていたのは丁度この辺りだ。

この敷地内に何か異変があれば自分に直接知らせることになっているが、未だ自分の耳に入ってこないところを見ると恐らくはジェイドが握りつぶしたに違いない。
この場所にも血の跡すら見当たらないから、きっとあの後ジェイドが痕跡を消したのだろう。

あいつは抜け目のない男だから。

そこまで思って、プラチナの瞳が不快げに揺らめいた。

何故隠す必要がある。
天使を倒したこと自体は別に責められることではない。
以前からジェイドが主張していた警備増強も、この件を盾に取ればすんなり通っただろうに。
前々から隠し事の多い男だったが、それでもやはり、こんな、彼にとってのメリットが見えない隠し事をされるとどうしても理由を考えてしまう。

そして辿り着く結論はいつも同じようなものだった。


きっと、俺には言えない、疚しいことがあるのだろう、と。

そしてプラチナは無意識のうちに唇を噛み締める。



一度は裏切られた身。
けれど自分は裏切りを許し、彼は自分の傍らにあることを望んだ。
そうして共に平穏に過ごす日々。

けれどいつも何かが不安定な気がして、落ち着いてなどいられなかった。

ジェイドと天使。
ジェイドと羽根。
ジェイドと鳥。
果てにはジェイドと「白」という色彩さえも。


彼とその故郷を結びつけるような、そんなものを連想させる取り合わせを見たとき、不安は最高潮に達した。


本当は、ジェイドは帰りたがっているんじゃないだろうか。
本当に欲しいものは背中の羽根と故郷だったんじゃないだろうか。


よく考えてみればそれはもっともなことだった。

故郷を懐かしまない者はいない。
本来あるべきものを失った状態で安穏としていられる者もいない。



その望みを自分に言えなかったのはせめてもの償いだとでも言うのか。
それぐらいならいっそハッキリ言ってくれた方が良かったのに。



ジェイドにぶつけてみたい問い。
けれど決して聞けない問い。


埒もない。
プラチナは自嘲気味に微笑んだ。




ゆるりと目を上げる。


纏う緑が彼の色彩を思い起こさせたからか。
それとも穏やかな幹の色が、彼の使う力の源と少し近かったからか。


プラチナは口の中で小さくその名を呟くと、大きな樹木にそっと腕をまわした。











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2002.08.04アップ

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