「ねえ、プラチナ様。俺の気持ちはちっとも変わっていないのに。どうやったら貴方にそれを証明できるんでしょうね」
気を遣ったか、何も言わずにサフィルスが出て行った後、再び二人きりになったプラチナの頬にジェイドはそっと触れる。
「物語じゃありませんが、この胸を切り開いて想いが見えるのなら良かったのに」
頬の色は白くとも、確かに体温を感じる。
それなのに彼はまだ目覚めない。
「大体、貴方は俺の考えが読みにくいとか言ってましたが、
お互い様もいいところですよ。むしろ俺より貴方の方がなかなか感情を面に出さなくて。
まあ不機嫌なときだけは雄弁に表情で物語ってましたけど。
…でも、最初の頃より笑い方はだいぶうまくなってましたよね。
泣き方は…あまり練習する機会がなかったからか、進歩なかったですけど」
頬の次は髪に。そうっと壊れ物に触れるような手つきで髪の先を指先に絡めた。
「いえ、もちろん無理に泣かなくていいんですけどね。悲しいことがなかったのならそれはそれでいいんです。
でも、もし我慢していたのなら…。貴方はもっと泣き喚いてわがままを言って、
俺に恨みつらみをぶつけてもよかったのに」
指先に巻きつけた髪に唇を寄せて、ふとジェイドは目を開いた。
過去を思い出すように懐かしそうに目を細める。
「そういえば、一度だけ俺の前で、隠すことなく泣いてらっしゃいましたね。
あのときは驚きましたよ。恥を忍んで貴方からのリクエストの子守歌を歌って、
終わったと思えばいきなり貴方が泣いてるんですか、ら……」
語尾が揺れるように消えた。
ジェイドは目を見開いていた。
そのままゆっくりと視線をプラチナに落とし、「まさか」と呟いた。
あのとき、なぜプラチナが泣いていたのか。
その理由を考えたことはなかった。
臥せりがちで、身体的、精神的に辛いところに、子守歌を聞いて緊張が切れたのだろうと漠然と思っていた。
けれど、もしあれにもっと明確な理由があったとしたら。
泣きながら謝罪を繰り返したプラチナ。
ジェイドはその謝罪を、泣いたことに対してだと思っていたが、別の理由だとしたら。
例えば、この先を思い描いてのことだったとすれば。
あの子守歌には、プラチナへの想いをこめて歌った。
その、こめられた想いに気付いて、先に逝く事に対する謝罪だっとしたら。
プラチナが自身に向けられる想いに疎いとは言え、
ジェイド自身が隠す気もなかった想いにそれまでまったく気付いていなかったとは言わない。
けれど、向けられる想いに、思わず泣くほどに、その時プラチナの心が揺れたということ。それはまさか―――
ベリルの言葉が脳裏に甦る。
『ぎりぎりになって彼は僕のこの提案を受け入れた。
僕の見たところでは…多分、プラチナの決心を覆したのは、ジェイド、君なんだろうと思うのだけれどね』
縋るような眼差しを、ジェイドはプラチナにじっと注いだ。
「プラチナ様…」
緊張で震えそうになる声を叱咤して、ジェイドは全ての想いを込めて、あのときの旋律を辿った。
子守歌。
貴方に災いが降りかかりませんように。
貴方に全ての幸いが訪れますように。
願いと想いを込めた天上の調べは、ただプラチナのためだけに紡がれた。
一節が終わる頃、銀色の睫毛がぴくりと動き、その奥から現われた艶やかな深い青が、
泣きそうに顔を歪めたジェイドを捉えた。
「ジェ…イド…」
何より焦がれた青色がふわりと微笑む。
ジェイドは一瞬、息を詰めた。それから、
「プラチナ様…っ!」
これまで何度も呼び続けた、その名を呼んだ。
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2009.06.07
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