脅迫文(幕間)
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「あれ?」 春日仁は緑の目を訝しげに瞬かせた後、室内をぐるりと見回した。 学園長の話は予想通りくだらなかった。 仁の成績の優秀さを褒めたたえ、春日家を賛辞し、 とどのつまりは仁の祖父であり政界に大きな影響力を持つ春日伯爵と 懇意になりたいという野心しか見えない学園長の言葉を適当に聞き流した仁は、 足早に友人たちのところに戻ってきたわけだったが、 「ああ、おかえり。春日」 「話っていうのはやっぱりまたいつものおべっかだったか?」 友人たちの問いかけに頷きで答えながら、目は、いるはずの彼の姿を探す。 視線に気付いた友人の一人が、ああ、と応えた。 「相馬なら、用事があるからって言って先に帰ったぜ」 「はぁ!?用事って何だよ?」 明らかに苛立ちを感じさせる口調で詰め寄る仁を別の友人がまぁまぁと宥める。 「慌てて出て行ったから詳しくは聞いていないよ。ほら、そんな疑り深そうな目で見てないで。 今なら追いかければまだその辺りで追いつけるかもしれないよ」 納得はしていないようだったが、確かにこうしている間に光也を追った方がよいと判断したのか、 ともかく足早に教室を出て行った仁の後姿が見えなくなった頃、残された級友らはやれやれと溜息を吐いた。 顔を見合わせてもう一つ溜息。 「まぁ、いつものことだけど…」 「ああ。相馬が絡むと人が変わるよなー、春日は」 ところで、と続ける。 「良かったのかな。春日に…あの手紙を相馬が持っていったって教えなくて」 「…少なくともこの件に関して、僕は相馬の味方だからね。 相馬自身が春日にこの件についての話を持ち出すまでに周囲が余計な口を挟んで、 春日に誤魔化す算段をする時間を与える必要はないだろう?」 「それはまぁ………ん?相馬の味方?」 「うん」と頷くと、腕を組んで思案気に眉根を寄せる。 「春日は僕たちから見てもすぐそれとわかるほど…まぁ、今更当たり前のことだけど、 相馬を大事にしているだろう?自分に脅迫文が来てもそれを知られないようにするほどに」 「…ああ!なるほどなー。春日としては相馬を案じてのことでも、相馬がどう思うかはまた別ってことだろ」 「相馬が無茶をしないかということには少し不安が残るところだけれど…でも何も知らないままで、 もし春日に何かあったら相馬がどう思うかと考えるとさ」 そう言って苦笑した友人を、親しみを込めて軽く肘で小突く。 「お前があの二人の間のことに対してお節介を焼くなんて珍しいよな」 彼が、というよりは彼らを知る学生全体に言えることだが、 いつも当たり前のように一緒にいる二人にはどこか近寄れない雰囲気があったものだから、 多分誰より互いにわかりあっているのであろう彼らに口を出す者などいなかったのだ。 「便乗したくせによく言うよ」 指摘されて、まいったと糸目をさらに細くして笑う。 「…なんでだかわからないけど…うん、 最近の相馬はどうも何か放っておけない雰囲気があってつい世話を焼きたくなるんだよな。 記憶がないせいかもしれないけどまるで別人だし。でも前と違ってもやっぱり良いやつで…。 何にでも体当たりなぐらいに一所懸命だから。ま、危なっかしいってのもあるかもしれないけどな」 「違いない」 笑い合うと、先に飛び出した彼を追った友人はちゃんと追いつけるだろうかと、二人して窓の外の空に目を向けた。 |