ないものねだり
「土井先生って、わたしのこと羨ましいと思ってますよね?」
「乱太郎?なんだ?突然」
「…」
「…」
半助はやれやれと頭を掻くと、「まぁな」と答えた。
乱太郎は驚くでも得意げになるでもなく話を続ける。
「でも、わたしは先生が羨ましいと思っている、ってことも、先生は知ってるんですよね」
「……ああ」
羨ましいのは、それこそが「彼」が一番欲している存在だから。
自分には決して立てないその位置。
「せめてあと十年早く生まれてきてたら良かったな」
ぽつりと呟くと、半助が苦笑しながら乱太郎の頭をぽんぽんと叩いた。
「何を言ってるんだ。そうしたらお前ときり丸は出会えてすらいないかもしれないぞ」
「それはそうですけど…」
「それに、それを言うなら…私も、あと十年遅く生まれてきていたらと…思うことがある。たまにな。……たまにだぞ」
くどいほどの念押しに、「わかってますって」と笑って返す。
彼が自分を羨ましいと思うのは、これがきり丸と一番近い位置だから。
楽しいことも辛いことも全てわかちあう彼の隣の位置。
けれども彼の一番にはなれないのだけれど。
俯きがちになった乱太郎の隣で、半助は大きく息を吸いながら空を見上げた。
「親なんてのは寂しいもんだぞ。いずれどこの馬の骨ともしれぬ奴にもってかれるんだからな」
「今だけでも一番でいられるならいいじゃないですか。…っていうか先生、
それってまるっきり、娘をもつ父親の台詞ですよね」
「うるさいぞ」
乱太郎も半助に倣って空を見上げた。開放的な青い空。
「でも先生、わたしは別に今の位置が不満なわけじゃないんです。
この位置にいられて良かったと思ってます。ただ、たまに羨ましいと思ってしまうだけで」
「奇遇だな。私もだ」
「結局、ないものねだりってことですよね」
「違いない」
互いに苦笑して、再び青い大空を見上げた。
2008.11.15
|