夏風邪 






「プラチナ様。貴方ねえ・・・」

呆れたと言わんばかりに腰に手を当て渋面を作る。男のその表情がどこか新鮮に見えて、プラチナは思わずじっくり見入ってしまった。

気付いた男が鋭い視線を向ける。
「ちょっとプラチナ様。わかってるんですか?俺は怒ってるんですよ」
「ああ、すまん」

そう言いながらも思わず口許が綻んでしまったのを勿論この男は見逃すはずもないだろう。
案の定眉根を寄せると、手にしていた濡れ布をぽいっと放り投げてしまった。

ツカツカとプラチナに歩み寄ると、胸の中ほどから下がっていた毛布を首元まで引っ張り上げ、おまけに、暑いので足元に押しやっていた掛け布団までその上にバサッとかぶせた。
「・・・おい」
暑いと目で抗議するのをジェイドはそ知らぬ顔でやり過ごした。
「暖かくしてないと風邪が治りませんよ」
「・・・暑すぎる」
「丁度いいでしょう。汗をかくと治ると言いますしねえ」

しゃあしゃあと言いのけると、ジェイドは寝台に横たわるプラチナの枕もとに置かれた木製の椅子にドサッと腰を下ろした。

同じく、木目が暖かい小さなサイドテーブルに手を伸ばし、林檎と果物ナイフを手に取りながら、ジェイドはさらに言う。
「貴方ただでさえ体弱いんですから、自覚してくださいよ」
「それは・・・わかってはいるんだが」
「わかってるならちゃんと健康管理してくださいね。貴方、仮にも奈落王なんですよ。こんなことでは民に示しがつきません」

ぶつぶつ言いながらも手は器用に林檎の皮を剥いていく。
「大体、いくら暑いからって窓開けたまま寝るなんて。そもそも無用心過ぎです」

床に向かってどんどん伸びていく赤を眺めながらプラチナは曖昧に頷く。

ゆらゆらと伸びていた赤が、不意にぴたりと止まった。
それを上に辿っていくと、いつの間にかこちらを見ていたらしいジェイドと目があった。


「・・・聞いてます?」
「・・・・・・聞い・・・てる」

ジェイドはわざとらしく盛大な溜息を吐いた。
ムッとしたプラチナが言い返す。
「ちゃんと聞いていた!ただ・・・少し考え事をしていただけだ」
「それって私の話をちゃんと聞いていてくださらなかったーってことですよねぇ?」
「そんなことはない」
「でも考え事なさってたんですよね。私の話なんかよりよっぽど重要な」
「違う!俺はただ、お前が・・・・・・・・・、・・・っ」

思わず口許に手を当てる。
・・・やられた。
一人称が変わった時点で気付くべきだった。

「俺が・・・、何です?」
ジェイドが身を乗り出して聞いてくる。

プラチナは嘆息した。
まぁ、隠していたわけでもないのだから、別に構わないが。
そう思いながら、プラチナはぽつりと呟いた。
「お前が・・・そうやって怒るのは珍しいと思っただけだ」
ジェイドが訝しげな目を向けた。
「そうですか?俺、これでも結構口うるさい方なんじゃないかっていう自覚あったんですけど」
「昔は・・・怒らなかったろう?」
「え?うーん・・・そうでしたっけ」
「ああ」
少なくとも継承戦争時代は。


注意や叱責ならあった。
これはしてはならないとか。こうあるべきだとか。
少しでも「奈落王」の後継者たるに相応しくない言動をしようものなら大変だった。

けれど怒られたことはほとんどと言っていいほど記憶にない。
ジェイドの押し付ける難題をプラチナがそつなくこなしていたから、というのもあるかもしれないが、それにしても。


覚えているのはセレスとの戦いのときに、・・・それも半分ほどは不可抗力だったのだが、石を飲まされた、あの時ぐらいだ。
あのときのジェイドは確かに「怒って」いた。
思い出してみると、たいそう理不尽なことに、頭ごなしに「馬鹿ですね!」とか言われた。


でもそれは感情を素でぶつけてくるということ。
しかも、その感情の起因するところは、プラチナの身を案じて、だ。



「だから・・・少し・・・嬉しい、と思ったんだ」



感情を他人に見せることを嫌うこの男が。
他人のことなどどうでもいいと言い切れるこの男が。

だからこそ。





「ちゃんと反省はしている。以後、気をつけよう」

「・・・そうですか?それならまぁいいですが。それにしても怒られて嬉しいなんて、変わった人ですね」

どこか釈然としない顔つきで、ジェイドは綺麗に剥いた林檎を一切れ、プラチナに差し出した。

「もっとも、俺も病人に小言を言うのは本意じゃありませんし。まずは早く良くなっていただかないとね」

林檎の爽やかな風味が口の中に広がるのを感じながら、プラチナはゆったりと目を閉じた。














ちなみに。


「ところで怒られるのが好きって、もしかしてプラチナ様、マゾですか?」
と、何故か麻縄を後ろ手に隠し持ち、どこか嬉しそうな顔で問い掛けてきたジェイドと
「違う!」と瞬時に叫んだプラチナが例の抜刀漫才を繰り広げるのは数日先のことになる。















end.

 



2002.08.29アップ


素朴な疑問なのですが・・・
プラチナ様って何であんなにジェイド氏が好きなんですか。
いえ、無論ケチをつける気ではありませんが!っていうか私そもそもジェイプラなので!
相思相愛結構!どんと来い!(は?)
でも、ゲーム及びCDやって(聴いて)たらもう、寝てる間に何か吹き込まれた(洗脳)んじゃないだろうかと
思わざるを得ないぐらいにジェイド好きですよね、プラチナ様・・・。
しかもジェイド氏、アレクディスクにおいては確信犯だし。ぎゃっ。
プラチナディスクはそうでもないのですが、アレクディスクとドラマCDって、たまにプラチナ様が不憫に思われてなりませぬ・・・。つか、そーんーなーにーすーきーかぁぁぁぁ。(笑)
そんなこんなで、どうやらうちのプラチナ様も私の予測以上にジェイド好きなようです。。。
はは。もっともうちのジェイド氏も、びっくりするぐらいプラチナ様好きですが。愛ですか。うふ。

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