[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。







ずっと側に居て欲しいと願った。
ずっと僕の隣にいて。お前の隣を僕以外の誰にも渡さないで。
「もちろん俺はお前の隣にいるよ。友達だろ?」
違う。そうじゃなくて、誰より一番近くに居て欲しいのに。
「何言ってんだ。お前の一番は慶光だろう?」
当たり前のように明るくそう言った光也は、僕が一瞬本気の殺意を覚えたことなど知りもしないだろう。
今までも、そしてこれからもずっと。







最高に最な唯一の方法






「みつ…みつ…」
そう呼んで、ほんの少し弱った顔を晒せばそれだけでもう光也は僕を拒否しない。
最初はあれほど嫌がっていた口付けすら、頬や指先であれば甘んじて受け入れている。
ただし口へのそれ以外、だ。

「駄目だろ、仁。それは…慶光に置いとけよ」
そう言って諌めるように僕を見詰めた後、きまずそうに視線を逸らせるのだ。

「…でも、人格は別でも、みつはみつじゃないか」
僕はわざわざ光也の顔をのぞきこんで、額を合わせた。
ぎょっと身を引きかけた彼の身体をゆっくりと腕の中に囲う。
「お前の記憶から僕が消えてしまっていることが、時々とても辛くなる…」
逃がさない。
「…寂しいんだ、みつ…」
泣きそうに顔を歪めた光也は、腕の中に大人しく納まり、そろそろと手を僕の背中に回してきた。


なんということだろうか。
慶光を僕から奪ってしまったという思い込みから来る罪悪感を抱いている光也。
本当は彼に責任なんて何一つないはずなのに。
原因は僕が一度そうやって謂れのない責めを光也にぶつけたせいだ。
必要のない罪悪感にとらわれて僕を拒絶できない光也。
おまけに光也は自分をあくまでも慶光の代わりだと思っている。
まったくできの悪い笑い話のようじゃないか。

だけれど――


「また、金星のマスターと会っていたのか?」
「あ…ああ、慶はいろいろ相談に乗ってくれて…」
「あの男と、この僕と、どちらが大事なんだ?」
「んなこと…」

顔は見えないが、声だけで感情が手に取るようにわかる。
多分困っている。そして悲しみを抱いている。恐らくはほんの少しの怒りも。
彼は、どちらも大事だから選べないと言いたいに違いない。
けれど、彼が今の僕にそれを言えるはずがない。

光也の肩に乗せていた頭を、甘えるように擦り付ける。
丁度目の前にあった耳を柔らかく噛みながら、囁きを忍び込ませた。
「僕には、”みつ”しかいないのに」
光也の身体が面白いほどびくりと強張り、小さく震えだした。

僕が言った”みつ”を彼がどう捉えたかなど、考えるまでもない。

今なら、慶光が不変の関係を望んだ気持ちがよくわかる。
ただ、僕は慶光ほど人間ができていない。
不変を求めてただの友人に甘んじるには僕の本性は強欲すぎる。

慶光に対して不変でない関係を提示できたのは、結局、幼い頃から共に育ち、お互いを知り尽くしていたからだ。
何をしても根底の関係が変わるわけではないと僕は確信していた。

だが、光也は違う。
例えば「好き」と告げることで何かが変わってしまうかもしれない。
一時好き合ったとしても、未来永劫離れない保証などどこにもない。
彼は、僕から去っていくかもしれない。
そんなの耐えられるはずがない。


だから、こいつを絶対に失わずにすむ方法を僕は選ぶ。
雁字搦めに縛り付けて、一生逃がさない。

だから僕は、慶光と光也が全くの別人であることに、気付いていない振りを続ける。
だから僕は、彼の本当の名前を呼ばない。


それが最低な方法だとわかっていても。


「なぁ、みつ。ずっと僕の隣にいてくれるだろう?」










2007.11.06/紫
暗!






*** お手数ですがブラウザバックにてお戻りください ***